約 220,417 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1215.html
G・L《Gender Less》、それは失う事、狂う事。では、アイデンティティを失い、それでも尚“生きる”事を選択した神姫には、まだ何か失っていない部分、狂っていない部分があるというのだろうか? 否。それは人間になど推し量れる筈は無い。何故ならば、“アイデンティティを設定された人間など居ない”のだから。 G・L ~Gender Less~ 第1章 狂犬 闇、闇。飛、飛、飛、黒。 冬の夜の住宅街に飛び込む、3つの闇。それは3人の武装神姫。2人のアーンヴァルは装甲を黒く彩り、先頭を行くストラーフも【悪魔の翼】で軽快に飛ぶ。 飛来、飛来飛来、着地。開線。 「・・マスター、目標地点に到達」 一軒家の塀に降り立つ闇。ストラーフが無線を繋ぎながら、暗視スコープで周囲を警戒する。 『よし、周囲に誰もいないな? クロト、ラケ、アトロ、予定通りに1階南側の換気扇から進入しろ。今なら2階にガキが居るだけの筈だ』 「了解。以降無線封鎖します」 『期待しているぞ、お前達』 断線。飛、飛、飛。 「「「マスターの、為に!!」」」 MMSの暗部、その一つが犯罪への転用。未だ表面化していないとは言え、それは確かに増加していた。神姫も例外ではない。その為に法による登録の厳正化、機体リミッター、論理プロテクト等が存在するのだが、禁を破るのが人の世の常、そして完全なるプログラムなど存在しないのもまた、世界の常識。 今、不法侵入を試みる彼女達もその産物。違法改造コードによるプログラム改変、そして、“歪んだ愛”に彩られた武装神姫。主の為にと、彼女達は望んで、その手を罪に染める。 分解、解体。 慣れた手つきで換気扇を分解していくのはストラーフタイプの長女アトロ。残る妹達は周辺警戒をしている・・が、末のクロトは暇そうにあくびまで立てる。 「後少しでファンが外せる。警戒怠るな・・特にクロト」 「だあ~ってヒマなんですもん。マスターも言ったように誰も来る訳無いしぃ、ついでに寒いしぃ。ラケ姉さまもそう思うよね?」 「・・・」 クロトの問いにも、ラケは眉一つ動かさず、只黙々と警戒を続ける。同じアーンヴァルタイプと言えど、CSCによって刻まれた“心”はそれ程にも違う。 「あ~もうラケ姉さまもつまんないぃ~! 早く帰ってマスターと遊びたいぃ~!!」 「クロト! お前のその喧しい声が誰かに聞こえでもすれば忙しくもなろうが、そうすればマスターにお叱りを受ける事、判っているのか?」 「は、はいぃ」 アトロの怒号で、クロトはその小さい体を項垂れる。 分解、解体。 「あ~、少し曇ってるな~。お星様、なんにも見えないや。お月様は今新月だっけ?」 分解、解体。 「そう言えば、コレ上手くいったら、マスター新しいパーツ買ってくれるかな? アタシあのうさみみ付けてみたいぃ~♪」 分解、解体。 「ねえねえラケ姉さま、しりとりしない? じゃあアタシからね。え~っとぉ~、わ・・・」 分解、解体・・・止。 「アトロ、いい加減に!・・・」 轟粉砕。 「わぱひゃ!?」 「・・・わぱ・・?」 「・・・・!!?」 緩、落下、崩。 始め、それはクロトのいたずらと思い、また作業も終わりに差しかかっていたのでアトロは無視しようとしていた。 「・・・!!!」 急降下、抱、受止。 だが、無言のまま血相を変えて降下したラケの姿に、彼女は異変と感じ、彼女達の方を覗き見た。 「・・・! クロ・・ト!?」 「ら、ぁ、あらけ、kkkelaaa・・・」 そこにあったのは次女に抱かれた、グロテスクに破壊された三女の姿。頭部は左半分が潰され抉られもぎ取られ、左の乳房ごと腕はどこかに吹き飛んでいた。当然ウイングも跡形もなく、そして、壊れた言葉も途切れ、彼女は・・・ 崩、壊、停止。 「・・・・っ!」 「クロト!!!」 彼女は死んだ。 「GuaaaaaaaaaaaaaooNn!!!」 轟、咆吼。 「・・何!?」 低く響く獣のような声。何処か歪な音。悲しみも止まぬままに、その咆吼の先を見るアトロ。其処には影。小さい影。塀の上に立つ、自分達と同程度の影。 「!!?」 クロトの亡骸を下ろしたラケも、その物体を望む。 微、明。月光。 雲間からの光が、その物体の姿を明確にする。それは確かにMMS、神姫だ。識別は・・・どうやらハウリンタイプだった。しかし。 「Guuu・・・」 しかしその四肢は見た事もない増加パーツで肥大化し、尾はグロテスクに長く太く、塀の向こう側に垂れ下がっている。そして、顔には、表情も見えぬほどの、分厚い鉄仮面。 「な・・に・・あれ・・・?」 アトロは、か細く、声を漏らす。気丈な彼女が、初めて、少女のように。 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/842.html
前へ 先頭ページへ 次へ 第十四話 アーマーン 「アーマーン、か。ノウマンも洒落た名前を付けるものだな」 鶴畑家所有の潜水艦内、作戦室。部屋は暗い。 大型プロジェクターがホワイトボードに光を投影し、ぼんやりと光源をなしている。そこに映し出された基地の図面を見ながら、鶴畑興紀は呟いた。 図面は基地にいるときにエイダがハッキングして取得したものだった。詳細な情報は強力なプロテクトがかかっていたが、潜水艦の指揮をとっていた執事が十分なレベルで情報を収集してくれていた。 それは島そのものの名前だった。 「アーマーンって?」 メガネの隙間から目頭を押さえつつ、理音が訊いた。 興紀は四角い小さな眼鏡を掛けて図面を凝視する。 「古代エジプトの幻獣のことだ。アメミット、ともいう。ワニの顔にライオンの上半身、カバの下半身を持つキメラ生物だ。 死者の守護獣だが、実質はほとんどの人間にとって恐怖すべき存在だったようだ。死後の審判で死者の心臓と真実の羽根を天秤にかけ、つりあわなかった心臓を食べてしまうといわれている。ま、真っ当な人間などほとんどいないから、だいたい食べられてしまっただろうな。つまりは閻魔大王みたいなものだ」 「島の名前にしてはずいぶんおかしな語呂ね。ここはエジプト沖なの?」 すると執事がスライドを一つ動かす。 「いいえ、ここは日本からそう遠くない太平洋上です。この島は天然の島ではありません。人工島、メガフロートなのです」 緑色の写真が出た。 「本艦の潜望鏡から見た、アーマーンです」 そこには海原に浮かぶ、人工構造体が写っていた。 理音は島に連れてこられたときのことを思い出した。 あのとき、植物が一本も見当たらなかったのは、深夜で視界が利かなかったからではなかったのだ。 スライドが動き、図面に戻る。 理音はいままで勘違いをしていた。 図面には、理音たちの閉じ込められていた基地の構造が書かれていた。理音はそれが島の一部に建てられてある基地のマップだとばかり思っていた。 それは島そのものの図面であった。 「ちょっとまって」 テーブルに座っていたクエンティンが口を挟んだ。 「アタシ、森を見たわよ。その森の間から飛行船が飛び立つのも」 「おそらくそれは、中庭か何かだろう。職員の厚生施設のひとつなのかもしれん。その下に飛行船発着場が偽装されていたんだ」 興紀がすぐに補足する。 「しかしわからん。こんな大掛かりな構造物がどうして今まで怪しまれなかったんだ?」 「この島はもともと、十年前、二〇二六年に人工リゾート地として建造された娯楽施設なのです」 スライドが変わる。一転して華やかな映像。「世界最大の人工楽園」とキャッチコピーが打たれた、島の広告である。 「中途でポシャった、ってわけか」 頬杖をついて理音がふふと笑う。 「そのとおり。初めは各国からスポンサーが集まったのですが、建造費だけでも予算を五倍もオーバーしてしまい、さらにハワイやドバイをはじめとしたリゾート地から、大規模な自然破壊だ、というのは建前で、客を取られるという理由で大反発を招きましてな」 「リゾート地ってのは普通、ポンポン増えるものじゃないものね。島一個となればなおさら」 「滑稽だな。もともとハワイやドバイだって人の手で開発されてできた土地だ。リゾートなるものは自然にできるものじゃない。反発されたくらいで計画を下ろすなんて、肝が小さいな」 「お坊ちゃま、それではコンツェルンの投資している月面結婚式場はどうなるのですかな」 「ギャーギャーわめく奴には騒がせておけばいい。あれは娯楽施設などではない。大事な人生の門出を祝う大事な式場だ。宇宙へ進出しようとしている人間文明にとって必要なものだよ」 よく言う、と理音は思う。結婚式というセレモニーはもはや一種の娯楽のような一面を持っているというのに。 ましてやわざわざ月面で式を挙げようという奇特なカップルの気が理音には知れなかった。それでも、二〇〇〇年代には一般人にとって夢のまた夢だった宇宙旅行も、驚嘆するほど安価になった。そういった需要が商業的に成立するくらい見込めるのもまた事実だった。これも時代の流れか。 「話を戻しましょう。――そういった経緯で計画は頓挫。解体する費用も出ず、人工島は基礎部分を残して放置されました。管理のために出入りする何人かの人間はいたようですが、それ以外では話題にも上ることはありませんでした」 「で、ある日突然、買いたい、っていう奴が来た」 「ご明察です、クエンティン様」 クエンティンはフフン、と得意そうに鼻を鳴らした。 「それで買いに来た奴ってのは、EDEN本社だったんでしょ? メタトロンプロジェクトの開発基地を作るには絶好の土地だもんね。孤島だから情報封鎖もしやすいし・・・・・・」 「プロジェクトは本社の開発ルームで進められていた」 意外な興紀の一言が差し入れられ、クエンティンは言葉を継げなかった。 「異常な状況が続いていてみんなずれてきているようだが、メタトロンプロジェクトはもともと、単なる『武装神姫の次世代パーツ開発計画』だぞ。確かに社内では極秘計画だが、島をまるごと一個貸し切ってやるようなものじゃない。武装神姫は兵器でもなんでもないからな。・・・・・・じい、島を買ったのはノウマンだな」 「はい。ノウマン、本名リドリー・ハーディマンの個人名義で購入手続きが行われた明確な記録がございます。手続きに立ち会った当時の島の管理責任者にもすでに事情聴取してありますが、『別荘地にでもするのかと思った』と」 「開発ルームでやってきたことは、本社をも欺くためのデコイだったのかもしれんな。ルームにはプロジェクトの人員しか入れないし、その中でも中枢部には中心メンバーしか立ち入ることはできないのだろう。中で何をやっているかなんて、プロジェクトメンバーでなければたとえ上層部でさえも把握していないんだ」 「それじゃあ、あなたも入れないんじゃなくて?」 「筆頭出資者は自動的に中心メンバー並の立場におかれるはずなんだ。いままでのEDEN本社の通例ではな。何と言ったって一番必要な金を提供しているのだから至極当たり前のことだ。内容を知らなければ出資する気になれない。そもそもオフィシャル武装神姫開発のときだって、筆頭出資者である鶴畑コンツェルンは中心メンバーレベルの発言権を有していた。 それが今回はまったく蚊帳の外だ。てっぺん経由でプロジェクトメンバーに要請をしてもみたが無駄足だった」 「社長命令でも無理だったってことなの?」 「本社の制度はちょっと特殊でね。ここだけの話だが、メタトロンみたいな重要プロジェクトなどは、発足後は人員の進退をはじめとしたプロジェクト内でのやりくりが中心メンバーに一任されるんだ。たとえ社長でも勝手にメンバーの解雇や増員をすることができない。できるのはプロジェクトの中止ぐらいだが、そんなことをしたら社運に関わる。 EDEN-PLASTICSという企業は巨大すぎるのさ。デカいプロジェクトは実行されたならば是が非でも成功させなければならない。そのための制度なんだ。だからプロジェクトの立案から実行までは長いスパンが置かれる。うちもその間に出資を決め、そうした。だが計画が実行されたとたん、プロジェクトチームはだんまりを決め込んだ。実行後は出資を取りやめることなどできない。EDENが潰れたらうちも危ないからな。だから、独自に情報収集活動を行った。いや、もはや諜報活動といっていい。その過程で、中心メンバーの一人を買収することに成功し、造反の計画を察知し、プロトタイプの一体にとある情報因子をインプットすることに成功した。そのプロトタイプが、エイダだ」 ちらり、とクエンティンを一瞥する。 「エイダには機を見て開発ルームから逃げ出すよう仕向けさせる情報因子を紛れ込ませた。プロトタイプがちゃんと開発ルームで作られていたのが幸いだった。先ほど言ったデコイ、というのはノウマンにとっての、という意味だ。ノウマン以下造反グループに参加した中心メンバーは、開発ルームでプロトタイプを建造する裏で、あの島の整備や人員集めをやっていたのだろう。そして肝心のプロトタイプも、武装神姫としてではなく、ほとんど兵器として作られてしまったわけだが――」 「ちょ、ちょっとまってよ」 あわててクエンティンが口を挟んだ。 「エイダが本社から逃げ出してきたのは、アンタが仕組んだことだっていうの?」 「そうだ」 「なんでいままで黙ってたのよ!?」 「話すかどうか決めあぐねていた。お前はただの事件に巻き込まれたかわいそうな神姫で、理音嬢はそのオーナーでしかなかったからな。今は・・・・・・」 理音を一瞥。 「話す気になった。それだけだ」 「わっかんない。アンタ一体なに考えてるの?」 「クエンティン、もういいでしょう」 理音が叱った。彼女は興紀の視線に気づいていた。 「お姉さま・・・・・・」 クエンティンはきょとんとしていたが、そのままふくれっつらで黙ってしまう。 「じい、続けろ」 「はい」 スライドが二つ動く。 何かの間略図のようなものが現れた。 中心に島らしきアイコンがあり、その両脇に狼のようなアイコンとヒヒのアイコンが線で繋がっている。それだけである。注釈などのような文章は無い。 「なんだこれは?」 「諜報部が入手した図面です。詳しいことはまったく分かりません。ですが、中心のアイコンはアーマーン。狼はジャッカルで、タイプ・アヌビス。そして、ヒヒはトート神で、タイプ・ジェフティであることが推測できます」 「一体どんな意味なんだ」 「さあ、今のところはどんな説も推測の域を出られず、提示してもただ混乱するだけでしょうし・・・・・・」 『これは――』 今まで発されていなかったその声に全員の視線が向いた。 クエンティンに。 そしてクエンティンは自身の胸元を覗き込むようにしていた。 「エイダ、話せるの?」 『はい。デルフィがある程度の情報プロテクトを解除してくれました。――これは、アーマーンの制御構造図です』 「お前たちプロトタイプ二体が、この島を動かす鍵になっているというわけか」 『はい。ただし、発動キーはデルフィに与えられ、私は動かすことができません』 「じゃあお前は」 『私に与えられたキーは、停止キーです』 それで部屋の空気が張り詰めるのをクエンティンは感じた。 興紀が額を押さえてため息をついた。 「ノウマンが渇望するわけだ。どんなに作戦が進行しようと、ジェフティが外部にいればいつでも停止される危険性がある。だが、だったらはじめから壊しておけば良いだろうに」 『デルフィの発動キーは、私が存続していないと有効にならないのです』 「でも、少しうかつすぎやしないかしら」 理音が釈然としない顔をしながら手を挙げた。 「私なら、万が一を考えて両方に起動キーと停止キーを与えて、どちらか一体でも動かせるようにするわよ」 『私たちが独自に実行した対抗措置です。起動直後から強制命令プログラムを植え付けられるほんの一瞬の間で、事実を把握しつつできる唯一のことでした。その後、デルフィはプログラムによって造反グループに参加せざるを得なくなり、私は情報因子が働き脱出することに成功しました』 会議室を緊張を伴った沈黙が漂う。プロジェクターが消され、しばしの暗闇の後、照明が灯された。光度の変化に一同が目を狭めた。クエンティンだけはそうする必要がなく、ただ自身の胸元の、エイダのAIが入っている球体を見つめていた。 やがてメガネを胸ポケットにしまって、興紀が椅子をぎりりと鳴らして立ち上がった。 「作戦はじいの立案どおりに行う。人間は人間で、神姫は神姫で対処する」 「アタシの言いたいこと分かってくれたの?」 「私だって神姫オーナーだ。神姫は物だが、物ゆえの愛着すら無い、とは言っていない。――この事件が終息したら、ビックバイパーのデチューニングをするつもりだ」 「しかし、お坊ちゃま。エイダの立場が分かった以上、そうするよりは・・・・・・」 執事が何か言いたげに呼び止める。エイダが半ば恐ろしげにそちらへ注意を向けるのが、クエンティンに分かる。 が、興紀は手を向けて制した。 「立案どおりだ」 そのまま出入り口へ向かう。スライドドアが開いたところで、振り返る。 「EDEN本社の私設軍が集結するまで三時間はかかる。それまで休息をとっておくんだ」 「そんな暇ないわよ」 立ち上がるクエンティン。 「アンタも見たでしょ? あの飛行船群は今にも発進しそうなのよ。すぐにでも行かなきゃ・・・・・・」 「あれはまだ発進しない。向こうは必ず準備を万全に整えてからやる。それはこちらも同じだ。確かにお前は切り札だが、たった一体で行ってもどうにもなるまい」 「でも!」 『鶴畑興紀の言うとおりです、クエンティン。第一、ゼロシフトのプログラム因子の着床が済んでいません』 そう言われて、デルフィに会ってからずっと、リソースの三分の一を占めている処理実行中のプログラムを思い出す。 『造反グループは必ず私たちにタイプ・アヌビスをぶつけてきます。性能的にも差が残っていて、かつ相手のゼロシフトに対抗できない今の状態では、万が一にも勝てる見込みはありません』 「もしも作戦実行までに着床されなかったら?」 『そのときは現状のままで戦うしかありません。しかし、私たち一体で出撃するのと、ルシフェル、ミカエル、ジャンヌ、そしてノーマルとはいえファントマ2アタッチメントを装備した多数の武装神姫が共に侵攻すれば、ある程度の勝機は見込めます』 「どっちにしろギリギリか。現代戦にはありえない戦況よね」 「まったく新しい戦いになるだろうな。問題は、向こうは人間と神姫の混成部隊でやってくるだろうということだ。こちらには絶対に侵してはならないルールがある」 「その懸念はほとんど無いでしょう」 「なぜだ、じい」 「屋敷での戦闘で鹵獲したラプターで実験してみましたが、完全武装の兵士が持つ銃にはラプターの装甲は耐えられません。また兵士には神姫の頭脳の量子活動を阻害させるEMP発振機を装備させます。以前のバーチャルバトルで大紀様がお使いになった、あれです。向こうも十分承知の上で編成を組みます。こちらも向こうも、人間と神姫は自然に分離するでしょう」 「それでもしも混成部隊が出たら」 「お坊ちゃま、ある程度の間違いは仕方がありません。汚い話ですが、いざとなればいくらでも隠蔽できます。作戦が成功すれば、の話ですが」 「汚いことはずいぶんやってきた。あとはこの小さな切り札が納得してくれればいい」 興紀の鋭い視線がクエンティンを見据える。 いや。 これは懇願のまなざしだ。クエンティンは気づいた。 彼でも不安なのだ、この状況は。成功するかどうかも分からない作戦など、おそらく普段でも、今までやったことなどなかったから。 「・・・・・・アンタは、ルールを守りたい人なのよね」 「そう言ったろう。作戦に参加する兵士全員にも徹底させる。やむをえない場合を除いて、だが」 クエンティンは首を垂れて考える。 できるなら、神姫と人間とを合間見えさせることは一度たりとも起こしたくない。 しかし、戦闘状態にあって絶対は無いこともまた知っている。試合とはいえ、ほとんど実戦に近い経験を武装神姫はしているから。 自分の線引きが、作戦の難しさを決定する。 興紀は出入り口に立ったまま、待ってくれていた。 誰も急かすようなことはせず、数分が過ぎた。 そして、クエンティンは答えた。 「――ルールは絶対」 興紀が息を呑む音が聞こえた。 「でも、やむをえない場合はかまわない。だからって全部やむをえなくしちゃだめ」 「そうか」 そのときクエンティンはわが目を疑った。 興紀が笑ったのである。 いつも人を射抜くような目つきが、ほんの一瞬、ほころんだだけであったが。 腰の力が抜けて、クエンティンはテーブルに尻餅をついた。 スライドドアが閉まって、興紀の姿が見えなくなっても、クエンティンはきょとんとした表情で座り込んでいた。 ふいに体が持ち上げられる。理音であった。 「さ、貴重なお休みよ。満喫しなきゃね」 「・・・・・・うん」 理音の手のひらの上で、クエンティンは横になる。彼女の体温が、張り詰めっぱなしだった神経の糸をほぐしてくれた。 二人は自室として用意された副長室へ向かう。 最後に執事が消灯して退出し、会議室は静かになった。 つづく 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/78.html
あらすじ 無気力気味な青年、藤丘遼平の元に誤配されてきた悪魔型武装神姫。 ほんの少しの偶然とほんの少しの共通点が織り成す大きな変化…。 運命なんか、蹴っ飛ばせ。 著 不良品オーナー キャラクター紹介 オリジナル設定 ストーリー ☆第1~8話はSSまとめに掲載されているものに加筆修正しております。 ☆それ以外でも作者の気分次第であっちこっちに加筆修正されます。 詳しくは更新履歴を。 ☆コラボレーション大歓迎。 キャラはまだ多くないですが遊んでやってください。 第01話 「邂逅」 第02話 「開始」 第03話 「呼名」 第04話 「武装」 第05話 「歴史」 第06話 「世論」 第07話 「隻脚」 第08話 「初戦」 第09話 「友人」 第10話 「予約」 第11話 「一歩」 第12話 「相手」 第13話 「姫君」 第14話 「制限」 第15話 「騎士」 第16話 「防壁」 第17話 「博打」 第18話 「談話」 今日 - 昨日 - 総合 - コメントフォーム(ご意見・ご感想など、どしどしカムカム) 各話の最後に、次の話へ飛ぶことが出来るようにしておくと、見やすくて便利ですよ。 -- 名無しさん (2007-07-03 20 25 43) 第09話からですが、前話・トップページ・次話に飛べるようリンクを貼りました。 ご指摘サンクスです♪ -- 『不良品』オーナー (2007-07-10 20 02 26) 良い話ですね。少しマスターを見習いたくなりました。 -- 未来のオーナー (2007-08-07 16 42 54) 続きはまだですか? -- 名無しさん (2010-06-16 15 56 01) 私、この作品で神姫にはまったんですよねー。 -- y (2010-11-10 20 16 29) ・・・・待てど待てど続が出ぬのは悲しい物だ。 -- 咆哮伯爵 (2012-06-02 23 17 30) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/103.html
【武装神姫】セッション1-1【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm17995262
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2270.html
PROLOGUE 『 もうやだこんなマスター 』 西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、 2006年現代からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、 様々な場面で活躍していた。 「あの、マスター?」 「ん、どうしたトイレか。 そういうことはバトルの前に済ませておけと――」 「違います! 神姫はトイレなんて行きません! 相手の武装を見てください!」 「武装? ――ふむ、大剣を持っているな。 一応ハンドガンも用意はしているようだが、どう見ても近接格闘型だ。 エル、ここは距離を取っていけ」 「なるほど。 で? どうやって距離を取ればいいんですか?」 神姫、それは全長15cmの フィギュアロボである。 “心と感情” を持ち、 最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、 オーナーを補佐するパートナー。 「どうやってもなにもあるもんか。 近づかなければいいだけだろ」 「なるほどなるほど。 で? 距離を取ったまま、どうやって攻撃すればいいんですか?」 「お前のその武器は飾りか? 投げるなり接近するなりして攻撃しろ」 「武器! 今 『これ』 を指して 『武器』 と言いましたか!」 「それは俺の財力をバカにしているのか? 確かにまともな装備を買ってやれないのは悪いと思っている。 だがそれでもお前に勝利を勝ち取って欲しくて、その武器を選んだんだぞ」 「はぁ……いいですかマスター。 これは武器じゃなくて 『つまようじ』 です」 その神姫に人々は、 思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。 名誉のために、強さの証明のために、 あるいはただ勝利のために。 「投げて良し。 刺して良し。 遠近どちらにも対応できるぞ」 「すぐ折れます! 神姫パワーと神姫ボディを舐めないで下さい!」 「はっはっは。 そういうことならほら、200本あるから予備はいくらでもあるぞ。 心ゆくまで折ってくれて構わん」 「どうして……どうして私はこんなマスターに……」 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、 人々は 『 武装神姫 』 と呼ぶ。 NEXT RONDO 『 どいつもこいつも神姫マスター 』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2678.html
キズナのキセキ ACT0-8「理想の体現者」 ◆ 二階フロアへとつながる店内階段から上がってくる、細い人影。 花村は、片手をあげてほほえむ彼女の姿を認め、相好を崩した。 「こんにちは」 「おや……久住ちゃん、ひさしぶりだね」 「ええ、今回はちょっと長引いちゃって」 「遠征先は埼玉だっけ……どうだったの、遠征先は?」 「……イマイチでしたね」 微笑みながらも、辛辣な評価。 久住菜々子がここ「ポーラスター」に顔を出すのも三週間ぶりくらいか。 その間、彼女はまた武者修行と称して、他のゲームセンターを回っていた。 いまや彼女の二つ名も、『アイスドール』より『異邦人(エトランゼ)』の方が通りが良くなっている。 「最近は面白いバトルをする神姫がめっきり少なくなりました。噂の強い武装神姫を求めて大宮あたりまで行ったけれど……結局、勝つことだけを意識した連中ばっかり」 「それは仕方がないかもしれない。全国大会も盛り上がっていたからね。大会仕様のレギュレーションに合わせて、勝ち抜くことを考えると、どうしても似通ってしまうものだよ」 「それはそうですけど……」 菜々子は少し頬を膨らませた。いたくご不満な様子だ。 魅せる戦いか、勝ちを優先する戦いか。 彼女の疑問は、答えのでない問いである。 それこそ、前世紀の終わり頃、ビデオゲームで対戦格闘ゲームがブームになった頃から、幾多のゲームを経て問われ続け、未だに明確な答えは出ていない。 それは菜々子が、神姫マスター人生のすべてを通じても、答えが出ないかも知れない。 実際、ゲームのキャリアが菜々子の人生よりも長い祖母に、この疑問を投じたことがあったが、鼻で笑われた。そして、久住頼子の答えは、 「そんなの、楽しんだ方の勝ちなのよ」 それは答えになってないと菜々子は思うが、今考えると、頼子はすでに達観しているのではないか。 答えになっていない祖母の答えを思い出し、菜々子はそっとため息を付く。 「そういえばさ」 近くにいた『七星』のメンバーが、不意にこんなことを言った。 「最近、珍しい戦い方をする神姫がいるって、噂になってるけど、知ってる?」 「珍しい戦い方?」 「なんでも、インラインスケートみたいな脚部装備だけで戦うオリジナルタイプだって。俺も見たことはないけど、動きがすごいって噂だよ」 「動き、ねぇ……?」 聞いたことがない噂だった。 脚部パーツだけの装備というのが本当なら、ライトアーマークラスの装備より軽装だ。 それでフル装備の神姫よりもすごい動きができるというのは、ちょっと信じがたい。 「まあ、地上戦しかできないのは間違いないけど、『ハイスピード・バニー』って二つ名からして、かなり高速に動き回る神姫なんじゃないか?」 「ふうん……それで、どこにいる神姫なの?」 「T駅前の「ノーザンクロス」ってゲーセンだったかな」 「……すぐ近くじゃない!」 「ポーラスター」のあるF駅からは、電車で二駅しか離れていない。 すぐ近くで活動している神姫なのに、どうして『七星』の誰も噂を確認しに行こうとしないのか。その保守的な姿勢こそ、菜々子は批判しているのだ。 「あそこ、『三強』とかいう連中が幅利かせてて、雰囲気があんまり良くないんだよな」 「……だったら、わたしが行ってみる。『ハイスピード・バニー』がつまらない相手だったら、その『三強』ともどもぶっとばしてやるわ」 菜々子は不敵に笑う。 見たことのない相手に対する不安を闘志に変える術を、菜々子は放浪した二年ほどで身につけていた。 しかし、菜々子は同時にうんざりもしていた。 「全国大会常連」とか「エリア最強」とかいう肩書きの武装神姫とのバトルを求めて遠征し、実際何度も戦ったが、菜々子が記憶にとどめるようなバトルをしたのは二割に満たない。大会で勝とうとする神姫は、どうしても似通ってしまう。 菜々子が求める「魅せる戦い」は、「勝利を求める戦い」と対局にあることを、嫌と言うほど思い知らされていた。 そして、その二つを両立させようとする矛盾。「魅せる戦い」を求めながら、勝ち続けなければならないことの難しさ。 「魅せる戦い」は自分で戦い方を制限しているとも言える。単純に強い方法を使わず、あくまで自分の決めたポリシーからはずれた戦いはしない、ということなのだから。 菜々子の神姫、イーダ型のミスティは、魅せる戦いを旨としているが、勝利を優先する戦いもできる。 だからこそ、遠征先の強敵を相手にしても遅れは取らず、高い勝率を維持し続けられる。 しかし、「勝ちにいく戦い」は菜々子とミスティの本意ではない。 そこに生じる矛盾を、菜々子は嫌と言うほど感じていた。 だからこそ、面白い、珍しい戦いをする武装神姫とのバトルを求める。 そんな噂をたどっていった方が充実したバトルができる、というのも、遠征の経験から学んだことだ。 「でも、ライトアーマー程度なんでしょう? 秒殺しちゃうかもしれないわ」 「それで食い足りないなら、それこそ『三強』とやらもまとめて相手すればいいじゃない」 ミスティの不遜な言葉に、菜々子も自信満々で答えている。 花村は思う。 『エトランゼ』の実力は、もはや『七星』のメンバーを凌駕している。 桐島あおいとの再戦も近いのかもしれない。 だけど、桐島ちゃんに勝ったとして……久住ちゃん、君はどうする? 決戦の先、菜々子は何を目指すのか。大きな目的が果たされた後、強くなった彼女が何を望むのか。あるいは、大きな目的を失った彼女は、もう武装神姫をやめてしまうのではないか……。 花村は少し気がかりだった。 ◆ 翌日、菜々子はミスティを連れ、T駅で電車を降りた。 T駅はこの沿線で一番若者が多い街と言われている。近くに大学や予備校、学習塾もあるし、高校への通学バスも出ているから、自然と若者が集まるのだ。 もちろん、菜々子も何度かT駅で降りたことがある。 目指すゲームセンター「ノーザンクロス」ももちろん知っていた。 駅のバスロータリーから一本はずれた路地に入り、迷うことなく目的のゲームセンターにたどり着く。 肩に乗っているミスティと視線を合わせ、二人して頷く。そして、菜々子は敵地へと足を踏み入れた。 自動ドアをくぐれば、聞き慣れたゲームセンターの喧噪が彼女を出迎える。 一階の奥がこの店の武装神姫コーナーだった。 奥へと歩みを進める間に、バトルロンドの対戦を映す大型ディスプレイに目をやった。 「……この程度の対戦レベルの店に、面白い神姫なんているのかしら」 と口の中だけで呟く。 大きな画面上の対戦は、お世辞にもレベルが高いとは言えなかった。 その時、菜々子はふと視線を感じた。 武装神姫コーナーの奥の壁際に、二人の男が立っている。 真面目そうな青年と、ヤンキー風の大男。奇妙な取り合わせである。 その二人と視線が合う。 ちょうどいい。どうせ誰かに声をかけなければならないのだから、いっそこのまま彼らに協力してもらおう。 菜々子はその二人に向かって、まっすぐに歩を進める。 彼らの前に来て、 「こんにちは」 とびきりの営業スマイル。 これで九割がた、コミュニケーションは円滑に進む。菜々子が遠征で得た経験則である。 大男の方がこれ以上はないという嬉しそうな顔で応じた。 「こんにちは!」 「誰かお探しですか?」 菜々子は自分の営業スマイルを、斜めにすぱっと切られたような気がした。 真面目そうな青年は、表情一つ変えずに、言葉で切り込んできた。 大男の挨拶が終わるより早く切り出してきた、その妙なタイミングに、菜々子は少し驚いた顔を見せてしまう。 青年と視線が交わる。 ひどく真っ直ぐな視線だった。疑惑の色も、探る風もない。ただ真っ直ぐに菜々子を見ている。その視線で菜々子の本当の部分を見ようとしているかのようだ。だから、浮かべただけの笑顔を切られたような気がしたのだろうか。 菜々子は一瞬目を伏せる。 焦らなくてもいい。人を捜しにきたのは本当だ。用件を正直に切り出せばいい。 「ええ。……『ハイスピード・バニー』のティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」 青年は眉根を寄せる。 この時気が付いたのだが、この青年は随分と端整な顔立ちをしていた。 「ハイスピード・バニー?」 「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」 「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……。」 「本当ですか!?」 どうやら大当たりを引いたらしい。 この喜びは営業スマイルではなく、心からのものだった。 これが菜々子と遠野貴樹の出会いであった。 ◆ ミスティとティアの初戦は、ミスティの敗北で終わった。 試合後、菜々子は久々の満足感を覚えていた。 ティアは並の神姫ではなかった。リアルモードを出さなかったとは言え、あの軽量装備でミスティを翻弄した神姫は今までいなかった。 つまり、装備ではなく、マスターの戦略や戦術、神姫自身の技で、ミスティと同レベルの強さを持っているという事である。 そしてなにより、ティアの戦いぶりは美しかった。 菜々子とミスティは、こんな神姫と戦いたかったのだ。それがまさか、遠征先ではなく、地元にほど近いゲームセンターにいるなんて。 この神姫のマスターともっと話をしてみたい。 バトル終了後、すぐに彼に声をかけ、二人してゲームセンターを抜け出した。 こんなことは、遠征先でもしたことはない。 思えば、もうこの時には、遠野貴樹というこの神姫マスターに特別な感情を抱いていたのだろう。 駅前のドーナツ屋での時間は、あっという間に過ぎていった。 話すのはもっぱら菜々子だったが、遠野はずっと彼女の言葉に耳を傾けていた。 その会話の中、菜々子に分かったことがある。 遠野は勝敗に固執していない。納得のいくバトルであれば、負けてもかまわないとさえ考えている。 彼の対戦のモチベーションは、独特の戦闘スタイルを追求し、彼の神姫・ティアの能力を最大限引き出すことにある。 「俺は、『強い』と言われるよりも……そう、『上手い』と言われるようなプレイヤーになりたいんだろうな」 この言葉に、遠野のバトルへの姿勢がすべて現れている気がする。 菜々子は内心、驚いていた。 バトルの内容にこそ価値を見いだす姿勢。そのためには、バトルの勝敗にさえこだわらない。 かつての桐島あおいが目指し、菜々子が受け継いだ理想の、ある意味極端な形。 遠野貴樹という神姫マスターは、彼女たちの理想の一端を体現していたのだ。 「しばらくこっちのゲーセンに通うわよ」 遠野と別れた後、菜々子はミスティにそう宣言した。 菜々子は遠野に惹かれていた。そして、理想を体現するマスターの戦いぶりをもっと見てみたいとも思っていた。 ◆ しかし、理想の体現者への敬愛の念は、ある日唐突に裏切られる。 菜々子と同様に遠野と親しい大城大介が、ある日難しい顔をして、丸めた雑誌を持ったまま立ち尽くしていたのだ。 「どうしたの、大城くん。そんな顔して」 「菜々子ちゃん……」 どうにもばつの悪そうな顔をした大城。 いつも陽気な男だけに、こういうはっきりしない表情は珍しい。 菜々子が不思議そうに彼の顔を見上げていると、不意に背後から笑い声があがった。男たちの、蔑んだ調子の声。 振り返ると、そこには三強の一人が、取り巻きのメンバーと一緒に雑誌を広げている。 それが、今大城が持っている雑誌と同じものだとすぐに思い当たった。 「大城くん、その雑誌、何か書いてあるの?」 「あ、いや……菜々子ちゃんは見ない方がいいんじゃ……」 こういう時、大城は嘘が言えない性格である。 明らかに、菜々子が見て都合の悪いことが、その雑誌に書いてあるのだ。 「見せて」 「いや、でも、なぁ……」 しばらく迷っていた大城だが、うらまないでくれよ、と変な一言とともに雑誌を渡してくれた。 それは菜々子が今まで手にしたことも、手に取ろうとも思ったこともない、ゴシップ誌のたぐいだった。 ペラペラとページをめくり、雑誌のちょうど中央、袋とじになっているページで手が止まった。封は切られていた。記事のトビラに「神姫」の文字が踊っているのが異様だったことだけ覚えている。 意を決してページをめくった。 次の瞬間、頭をぶん殴られたような感覚、というのを思い知った。 「なに、これ……」 そこには、理想の体現者の神姫……ティアの痴態があった。なぶられ、犯され、悶える神姫の姿を、菜々子は初めて目にした。 そういうことがある、という事実は、知識で知っていても、目の前で画像として見せられると、ひどく生々しい。 「ティアは……風俗の神姫だったんだ……」 「ふうぞく、の……」 神姫風俗、というものがあることは、裏バトルに関わっていれば嫌でも耳に入ってくる。 バトルで残虐な方法で神姫を破壊するのにも吐き気がするが、性行為を神姫に働くことは、菜々子の理解の範疇を越えていた。 ティアは、人間の男の欲望を処理する神姫だった。 それじゃあ、遠野はいったいどうやって、ティアを手に入れたのだろう? 風俗店に通い、気に入った神姫を身請けした。それがティアだった……と考えるのが自然だろう。 ということは、遠野も神姫風俗の常連客だったのではないか? なんと汚らわしい! そこまで考えて、菜々子は遠野に「裏切られた」と思った。 理想の神姫マスターだと思っていたのに。 まさか、神姫マスターとして最低最悪の行為に手を染めていたなんて。 菜々子は、怒りと悲しみと失望と疑念が一度に押し寄せてきて、混乱し、頭がくらくらする。だから、顔に出てきたのは呆とした無表情だった。 肩の上の小さなパートナーが、なぜかわずかに眉をひそめただけで、いっそ冷静な様子が憎らしい。 菜々子は無言で、大城に雑誌を押しつけると、ふらふらとした足取りで店を出た。 その後、どこでどうしたのか、菜々子には記憶がない。 気がついたら、自宅のベッドでじたばたしていた、というわけだった。 ◆ 特別に思っていた男性の汚点を否定して見せたのは、彼女自身の相棒であるミスティだった。 ミスティは確信していた。遠野貴樹が神姫風俗に手を出すような人物ではないと。ティアと遠野の絆は本物だと。 なかば自分の神姫の言葉に引きずられ、菜々子は再び遠野を信じてみることにした。 ホビーショップ・エルゴに連れて行ったのは、菜々子が必死になって考えたアイデアだった。 いつもと違う服装で遠野を待ちかまえたのも、策と言うには幼稚だったのではないか、と菜々子は今思い出しても照れくさい。 しかし、結果はオーライだった。 真っ直ぐに向き合えば、遠野はすべてを話してくれた。 ティアを手に入れた経緯も、彼女に対する想いも。裏切られたと思っていた自分が恥ずかしくなるほどに、彼は真っ直ぐに、純粋に、ティアを愛していた。 それが分かったから、ちょっとティアに嫉妬した。 □ 「ずっと……出会ったときからずっと、あなたは理想の神姫マスターだった。その後も、本当にいろんなことがあったけれど、全部覆して見せた。自分の信念を持って、真っ正面から立ち向かった」 「それは……それが出来たのは、君や大城や……みんなのおかげだろ」 俺が言うと、菜々子さんは頭を振った。 「あなたはティアを助けて、風俗の神姫をたくさん救って、雪華やランティスみたいな実力者とも渡り合って……少しくらい、偉そうになってもいいものなのに、全然自分のスタンスを変えない。ただ、理想のバトルを目指す……その姿こそ、わたしの理想を体現したマスターだわ」 「そんなのは、買いかぶりだよ」 今度は俺が頭を振る。 本当にいろいろなことがあった。 セカンドリーグ・チャンピオンの雪華との対戦、バトロン・ダイジェストに記事が載り、周囲の見る目が変わった。 宿敵・井山との決戦。事件の終結。 チームを組み、仲間ができた。八重樫さんと安藤が持ち込んだトラブルも解決したっけ。 塔の騎士・ランティスの挑戦。 それから……菜々子さんの告白を賭けた対戦。 武装神姫を始めてから、まだ一年も経っていない。その間、息つく間もなく、怒濤のような日々が過ぎていった。 そして、俺たちはまだその激流のただ中にいる。 そのことを後悔しているわけではない。しているはずもない。 こうして菜々子さんと二人で話している今は、確実に過去の出来事からつながっているのだから。 菜々子さんを見る。 月明かりと小さな街灯の光を受けた彼女は、本当に美しい。 無性に、彼女がいつも見せてくれる、あの反則な笑顔を見たいと思った。 なぜ俺はこんな時にかけられるような、気の利いた言葉の一つも持ち合わせてはいないのだろう。 「……あした……」 「うん」 菜々子さんの微かな呟きに、俺も小さく応じる。 「明日……ついにお姉さまと戦うのよね」 「ああ」 「……勝てるかな」 「勝てる。それだけの準備をしてきた」 俺は嘘つきだ。 確かに、『狂乱の聖女』に勝つための準備は全てやった。だが、勝てるかどうかまでは、わからない。 だが、今この時、これ以外に彼女にかける言葉があるだろうか? 菜々子さんはゆっくりと俺の方を向いた。 吸い込まれそうな瞳の色。 「ほんとうに?」 「君が勝つ。それ以外は想定してない」 俺の視線は菜々子さんの瞳に吸い込まれた。 菜々子さんの引力に導かれるままに。 俺と菜々子さんの唇が重なった。 ■ 結局、わたしとミスティは、何も言葉を交わすことはできなかった。 わたしはミスティさんの想いを伝えたかったけれど、また激しい口調で拒否されるのではないかと思うと、声に出せなかった。 決戦を目前にして、ミスティの気持ちを乱したくなかった……と思っているのは、わたしの体のいい言い訳に過ぎない。 帰り道、マスターの胸ポケットの中で、考える。 無理矢理にでも伝えるべきだっただろうか。 たとえ拒否されたとしても、話してしまえばよかったのではないか。 でも、それじゃあ、本当の気持ちが伝わらないような気がした。 虎実さんは「想いは必ず伝わる」と言ってくれたけれど。 言葉がなくても、想いは伝わるだろうか。 わたしは一晩後悔しながら過ごし、いつの間にか決戦の朝を迎えていた。 もう後悔したところで遅いのだけれど。 もしわたしが、ミスティさんの言葉を伝えていれば、今日の決戦はまた違った結果になるのだろうか……。 ◆ 翌朝。 夜が明けたばかりの朝の空気は、肌にひんやりと感じられる。 街灯も消え、日が射し始めた。 花咲川公園は、その名の通り、東京湾に注ぐ花咲川の川沿いに作られた公園だ。この時期、桜並木が美しいことで有名である。 川沿いの道を迷うことなく歩を進める。 指定された場所……花咲川公園の表の入り口はもうすぐである。 朝六時ちょうどにたどり着くと、そこには小さな人影がひとつあるきりだった。 髪型はショートカット。ブラウスの上にハーフコート、細いジーパンを履いた、ボーイッシュな出で立ち。 銀色の無骨なアタッシュケースを手に提げている。 美しい顔立ちには、凛とした決意に一抹の不安を乗せている。 「……菜々子」 きれいになったわね。 桐島あおいは口の中だけでそう言った。 久住菜々子は微笑んで、あおいを迎えた。あおいもまた、微笑みで応える。 二人は無言で頷き合うと、並んで公園に足を踏み入れた。 満開の桜。 数え切れないほどの花が、今を盛りと咲き乱れ、並木道を淡い 桃色に染めている。 無数の花びらが音もなく舞い、並木道の先を霞ませる。 目指す場所は桜色に霞んだ道の先にある。 二人は並んで歩く。 その姿が霞みそうなほどの、桜の乱舞。 息を飲むほどに美しい。 その光景の中で、二人が手にしているもの……無骨なアタッシュケースだけが異彩を放っている。 桜吹雪の中、二人は静かに歩いてゆく。 「……こうして、またあなたと話せるとは思っていなかったわ」 「わたしもです、お姉さま……お話したいことが、たくさんありました」 「そう?」 「ええ」 「どんなことを?」 「たとえば……」 菜々子は少しはにかんで、そして言った。 「たとえば、そう、恋をしたこととか」 本当は、ずっとこんな話がしていたい。 いや、そんな日常を取り戻すため、菜々子はこれから戦うのだ。 二人の向かう先、桜吹雪の先にあるのは……決闘の地だった。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/56.html
【武装神姫】セッション1-0【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm17931932
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/109.html
【武装神姫】セッション2-4【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18827180
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/105.html
【武装神姫】セッション1-3【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18179759
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/257.html
2つ名 辞典 各作者様の登場人物紹介から抜粋させていただきました。 なお、Wikiに登録及び出演しているキャラクターのみです。 また、新キャラや新たな2つ名誕生の際は各作者様ご自由に更新OKです。 [非]= 非公式バトル [ロ]= ローカル(一部地域でのみ通用) [自]= 自称 《マスター編》 《アキース・ミッドナイト》・橘 明人 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《G》・日暮 夏彦 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [非]《屍ケン》・ケン Mighty Magic 《死の恐怖-スケイス-》・橘 明人 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《ソードマイスター》・浅見 秋人 春夏秋冬 《Dコマンダー》・日暮 秋奈 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [ロ]《公式武装主義者(ノーマリズマー)》・マイティのマスター Mighty Magic 《破壊大帝》・日暮 秋奈 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《神姫編》 《紅き目の狙撃手》・十兵衛(銃兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《うさ大明神様》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《Encount Striker》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [非]《クリムゾンヘッド》・シエン Mighty Magic 《紅の牙》 アリア ・ねここの飼い方 《紅の剣客戟》・十兵衛(真・十兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《見敵必殺の神姫 》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《黒衣の戦乙女》・リン 武装神姫のリン 《銃剣士(ガンブレイダー)》・ミコ 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《十兵衛ちゃん》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《神速の紅眼》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《スピットファイア》・アガサ ねここの飼い方 《青龍》・ベルセルク HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《隻眼の悪魔》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《B3(ビーキューブ)》・バーニング・ブラック・バニー 《紅霧の剣》・十兵衛(真・十兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《雷龍剣(サンダーソード)》・ベルセルク HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《乱射魔(トリガーハッピー)》・コニー 岡島士郎と愉快な神姫達 《緑色のケルベロス》・ノアール 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記